粉瘤(アテローム)

粉瘤とは

粉瘤

粉瘤(アテロームとも呼ぶ)とは、毛穴が詰まって皮膚の一部が内部に侵入して袋状(嚢胞)になり、そこにお粥のような形状をした臭い皮膚の垢が詰まってできた良性腫瘍の一種です。サイズを問わず皮膚を動かすと袋も一緒に動くのが特徴です。
私たちの皮膚の表面では、細胞の薄い保護層が絶えず新しいものに入れ替わり脱落していますが、これが嚢胞の中に落ち込んで蓄積されるのが粉瘤です。また、この嚢胞の中では表皮細胞によって壁が形成され、タンパク質の一種であるケラチンが分泌されます。これが時折排出される黄色の物質です。
粉瘤の発生部位は顔、首、体が多いですが、陰嚢、生殖器、指、頬粘膜内など、あらゆる部位に発生します。103名を対象に行われた研究では、発生頻度が高かったのは21~30歳(23.3%)、次に41~50歳(20.4%)で、部位では頭頚部(32%)、下肢(26.2%)、背中(19.4%)、上肢(9.7%)でした。また、男性の方が女性よりも多いことが確認されています(比率2:1)[1]。

新生児にも起こることがあり「ミリア嚢胞」として知られています。
粉瘤のほとんどは散発性(原因が不特定)ですが、ガードナー症候群やゴーリン症候群でも確認されることがあります。また、思春期前の若年者に異常な部位と数の粉瘤がみられる場合は先天性の症候群が疑われます。
ほとんどが良性ですが、約1%が扁平上皮癌または基底細胞癌といった悪性腫瘍に変化するといわれています。このため、粉瘤を切除したら組織を検査に出して悪性でないか確認するのが通例です。また粉瘤自体に感染性はありません。

菌などに感染して炎症を起こした嚢胞が破裂すると、周囲の真皮に強い炎症性細胞浸潤※が起こります。一方、感染していない嚢胞が破裂すると内容物が真皮に放出され、異物反応が起こります。つまり、炎症の原因は感染によるものと、異物反応によるものがあるということです。ちなみに炎症の多くは、感染よりも異物反応による場合が多いといわれています。炎症が異物反応による場合、抗生剤を用いても効果がないということになります。また、破裂によりメラノファージの増殖に伴い、大量のメラニン色素が集積することがあります[3]。

※好中球、好酸球、リンパ球など、体の防御システムが炎症部位に集まること。

粉瘤の症状

  • ほとんどは痛みがないため放置されることが多いです。

  • ほとんどは円形状に隆起しています。

  • 膿疱の開口部を塞ぐ黒い点があります。

  • 膿疱から悪臭のある黄色い粥状物質が排出されることがあります。

  • 炎症や感染があると発赤、腫れ、圧痛がみられます。

粉瘤の原因

原因は明確になっていませんが、以下の可能性が指摘されています。

  • けが、ピアスなど、皮膚が傷ついたことによる刺激

  • ヒトパピローマウイルスなどの感染

  • 紫外線への曝露

  • 高齢者の嚢腫面靤性結節性皮膚弾力線維症では長時間日光に曝露したことによる

  • BRAF阻害薬投与中の患者さんで顔面にみられることがある

  • イミキモド(尖圭コンジローマ治療薬)、シクロスポリン(免疫抑制剤)の使用[2]

  • ガードナー症候群、ゴーリン症候群

粉瘤の合併症

炎症 感染している場合はもちろんのこと、感染していない場合でも痛みや腫れが生じることがあります。
破裂 破裂すると膿のような感染症を引き起こすことがあり、早急に治療する必要があります。
感染 菌などに感染すると腫れて痛みが出ます。
皮膚がん きわめてまれですが、皮膚がんになるものもあります。

受診の目安

受診の目安
  • 急に大きくなった

  • 破裂、痛み、感染がみられる

  • 炎症が治まらない

  • 顔など、美容的に問題がある

  • 部位によって日常生活に支障をきたしている

粉瘤の一般的な治療

大きくは経過観察と摘出手術の2つがあります。従来は中身を押し出す治療が一般的でしたが、最近では袋が巨大化する前にくっついている皮膚も含めて取り除く治療が行われるようになっています。摘出手術には以下の2つの方法があります。

くりぬき法

くりぬき法粉瘤の小さな黒い開口部「ヘソ」と呼ばれる部分に特殊な器具やメスで小さな(通常4~5ミリ)穴を開け、そこから内容物を絞り出します。空になって小さくなった袋(嚢胞)全体を、傷つけることなくゆっくり穴から取り出して終了、または縫合して終了です。比較的小さな粉瘤で炎症を繰り返していないものが適応とされています。傷跡が小さくて済むことから顔なども適応とされます。

切開法

切開法粉瘤の大きさを考慮してメスで切開し、中の袋(嚢胞)全体を内容物が入ったまま丁寧に剥ぎ、摘出します。サイズが大きいもの(直径2~3cm以上)や炎症を繰り返しているもの、皮膚が厚い部位などが適応とされています。くりぬき法よりも創がやや大きくなりますが、術者が創を深部まで直接見ながら手術を進められるため、嚢胞をとりこぼしなく完全に除去しやすいというメリットがあります。

当院の治療と方針

当院では、粉瘤だからといって「すぐに切除」というスタンスではなく、粉瘤の状態や生活習慣、超音波画像などを考慮したうえで摘出するか経過観察を行うかを判断しております。ちなみにこれまでの当院のデータをみると、粉瘤で受診された方のおおむね7割が経過観察、3割に摘出手術を行っています。

基本的には、くりぬき法にせよ切開法にせよ、袋ごと取りこぼしがないよう切除することで再発を抑えられるとされています。しかし、毛穴は体中に無数あり、生活習慣などが原因の場合、近位や別の部位でまた別の粉瘤が形成されることが多いということも忘れてはなりません。この粉瘤は、毛穴が詰まってできることが多く、毎日入浴する現在では、石けんやシャンプーなどの洗い残しが原因であると考えられます。多くは首の後ろや背中の真ん中など、手が届きにくいところ、脇、足の付け根、また女性では胸の下側など、洗い残しをしやすい場所にできやすいです。小さいうちは切除しなくても医療機関で処置をしたり、セルフケアを行ったりすることで小さくなっていきます。大きいもので、痛みがあったり見た目が気になったりするようであれば切除します。また、感染を伴った場合は、抗生剤で炎症が治まるの待ってから切除します。膿が形成されているものについては、切開して膿を出す(ドレナージ)手術が必要になります。また、場合によって、連日の通院が必要になることもあります。

当院の摘出治療の特徴

くりぬき法と切開法の両方に対応

部位、サイズ、生活習慣などを総合的に考慮して、最適な方を選択しています。たとえば、サイズが大きいものを無理にくりぬき法で行うと、術後の創部が凹む(陥没)ことがあるため切開法を優先します。いずれにせよ、くりぬき法、切開法ともになるべく傷が小さくなるよう配慮しています。

あらゆる部位に対応

顔面、頭部、肘(神経の関係で)などにできる粉瘤の摘出に対応していないという医療機関が一部ありますが、当院では、基本的にあらゆる部位に対応しています。

痛みを最小限に

たとえ短時間でも手術は手術です。少しでも痛みがないに越したことはありません。当院の院長は外科医であるとともに「麻酔科標榜医」の資格も有しており、処置時の痛みについても特段の配慮を行っております。麻酔を注射するときに使用する針は30G(ゲージ)※の極細を使用し、針の刺入角度や薬剤の注入速度にも気を配り、痛みがないよう慎重に行います。

※針のサイズを表すG(ゲージ)数が大きいほど針の直径が細くなります。通常の皮下注射では23~25Gを使用することが多いです。ちなみに30Gの直径は0.3mmです。

日帰り手術の流れ

1診察&診断

粉瘤の状況や症状をお伺いしたり、触診などを行ったりして粉瘤であるか確認します。また必要に応じて超音波検査を行う場合があります。経過観察で十分であると判断した場合は今後気をつけることなどをご説明します。手術の適応である、またはご本人が希望される場合は、現在の粉瘤の状態と手術内容(くりぬき法か切開法か)、注意事項等についてご説明し、最後に手術同意書に署名していただきます。術後1週間前後で抜糸のため来院していただく必要があるため、それを踏まえて手術日を決めます。また、血液検査のため採血を行います。

2手術当日

受付を行っていただきます。医師より簡単な診察を行い、発熱や体調不良がなければ、手術についてご説明します。

3局所麻酔

粉瘤の周囲にマーキングを行います。切開法では紡錘形のマーキングも行います。
針の痛みがないよう、極細針で麻酔薬を刺入角度や速度に気をつけながら慎重に注入します。このとき、中の袋の癒着が緩むよう工夫しながら注入も行います。

4開孔

粉瘤の中心、ヘソ部分にメスまたは専用器具で小さな穴を開けます。

5抜き取り

くりぬき法ではここで袋の中の内容物を搾り出し、しぼんだ袋を取り出します。切開法では袋を、周囲との癒着を丁寧に剥がしながら慎重に取り出します。ここで取りこぼしがあると再発の原因となるため抜き取り漏れがないかしっかり確認します。取り出した組織を病理検査に出し、悪性でないことを確認します。

6縫合

傷口を丁寧に縫合してふさぎます。粉瘤のサイズによっては縫合しない場合もあります。
特に切開法では「Dog Ear※」とならないよう切開ラインを丁寧に縫合します。
粉瘤の数やサイズ、術式により、手術時間は10~30分程度です。

※切開ラインを縫合して1つの傷にしたとき、その傷の両端に膨らみが生じること。

7帰宅

当日と翌日は出血の可能性を考慮して飲酒、運動は控えてください。また、当日と翌日は入浴を控えてください。

8約1週間後

再度来院していただきます。縫合されている方は抜糸を行います。
病理検査の結果をご報告いたします。

粉瘤摘出手術の費用

皮膚、皮下腫瘍摘出術の自己負担額(3割の場合)

露出部 2cm未満 5,310~9,990円
2~4cm未満 11,340~16,020円
4cm以上 13,410~18,090円
露出部以外 3cm未満 4,170~8,860円
3〜6cm未満 10,020~14,710円
6cm以上 12,810~17,500円

※露出部:半袖半ズボン着用状態で露出している部分(顔、首、肘から指先まで、膝から足先)
※費用は病理検査、超音波検査によって変動するほか、診察料なども別途必要になります。

POINT!

粉瘤の手術は健康保険の適応ですが、個人で加入されている生命保険や医療保険からも契約内容に応じて給付を受けられる場合があります。
加入している保険の特約や約款をチェックして、『皮膚、皮下腫瘍摘出術』が給付の対象であるか確認するとよいでしょう。

参考元

[1] Nigam JS, Bharti JN, Nair V, Gargade CB, Deshpande AH, Dey B, Singh A. Epidermal Cysts: A Clinicopathological Analysis with Emphasis on Unusual Findings. Int J Trichology. 2017 Jul-Sep;9(3):108-112. doi: 10.4103/ijt.ijt_16_17. PMID: 28932061; PMCID: PMC5596644.

[2] Zito PM, Scharf R. Epidermoid Cyst. [Updated 2023 Mar 7]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499974/

[3] Jayalakshmy PS, Subitha K, Priya PV, Johnson G. Pigmented epidermal cyst with dense collection of melanin: A rare entity – Report of a case with review of the literature. Indian Dermatol Online J. 2012;3:131–4.

CLINIC医院情報

keyboard_arrow_up