変形性膝関節症とは
変形性関節症とは、脛骨と大腿骨が触れる膝関節に痛みなどの症状が起こる疾患のことです。クッションのような働きをする軟骨が摩耗して炎症が起こり、痛みが生じます。また、炎症が起こることで関節液の分泌が増加し、膝に水が溜まった状態になるともいわれています。
症状は中高年以降で頻発しますが、どちらかというと女性に多くみられる傾向にあります。
変形性膝関節症の症状
膝の痛みと変形が典型的な症状です。また、病状が悪化すると膝が動かせる範囲が狭くなり、最終的には日常生活にも影響が及びます。その他、階段の昇降(特に下り)、しゃがむ動作、正座がつらい、スピーディーに動けない、動き始めに膝の後ろ側が痛む、歩くときにふらつくなどの症状などが挙げられます。
発症間もない頃の症状 |
動き始め・起床時の膝のこわばり(鈍痛、重いなど)、急な方向転換・正座・階段の昇降時の痛みなどが起こります。 |
中期の症状 |
慢性的な膝の痛み、階段の昇降時・深くしゃがむ動作・正座などが難しくなる、熱感がある、歩くときに膝がきしむなどの症状が起こります。 |
末期の症状 |
上記の症状の悪化、長く痛みが続き精神的苦痛が増える、しゃがむ・座るなどの日常生活の動作が難しくなるといった症状が起こります。 |
変形性膝関節症の原因
痛みの原因
関節内の炎症によって痛みが生じます。
関節内は関節液で満ちていますが、関節液の中の軟骨の破片が関節内部の膜にダメージを与えることで炎症が起こります。
通常、軟骨の表面は簡単に摩耗することはありません。しかし、膝は1日に何千回も擦れるため、長い時間が経つと次第に擦り減っていきます。そして、軟骨表面のなめらかさが失われ、軟骨そのものが擦り減っていき、削られた軟骨の破片が関節内部の膜にダメージを与えて炎症につながるとされています。
変形の原因
軟骨が摩耗することで骨と骨が衝突して変形に至ります。
軟骨が摩耗して消滅すると、脛骨と大腿骨が衝突するようになって、それぞれの骨が摩耗していきます。骨には再生能力がありますが、膝には常に自重がかかっているため骨が正常な位置に復元されず、横に飛び出してしまいます。この飛び出した骨を骨棘(こつきょく)と呼びます。骨棘が大きくなると骨の内外にかかる体重差にばらつきが生じ、X脚やO脚のように目で見てわかるくらいの変形が生じます。そして、些細な動作でも激痛が走るようになり、手術が必要になる場合もあります。
変形性膝関節症になりやすい人
加齢に伴って発症率が増加し、特に50代以降で顕著になります。どちらかというと女性に多い傾向がありますが、明確な原因は不明です。ただ、男性よりも筋肉が少ない、関節が小さい、閉経後に女性ホルモンが減少する、ハイヒールを着用するなどが関係していると推測されています。そのほかにも筋力低下、肥満、膝への負担の増加、スポーツ歴なども発症に関係しています。また、介護職など膝を酷使する職業の方は30代や40代でも発症のリスクがあります(性別差はありません)。
変形性膝関節症になりやすい人の特徴
- 50代を超えている方
- 肥満
- 女性
- 膝に大きな負担がかかる職業の方(農業、漁業労働)
- 膝を使い過ぎるスポーツ(サッカー、スキーなど)の経験がある方
- 骨壊死、リウマチなどの既往歴がある方
変形性膝関節症の診断
問診、触診、検査を行ったうえで、変形性膝関関節症の診断・治療方針の決定に進みます。
問診・触診
問診で症状の詳細を丁寧に確認します。
いつから痛みが生じているか、痛む部分はどこか、1日中痛みが続いているか、痛みが生じない時間帯もあるのか、日常生活のどんな場面で痛みが生じるかなどを伺いますので、事前に伝えたい内容を整理しておくことをお勧めします。
また、膝の周辺を指で押して、腫れや関節液の貯留がないか、熱をもっていないかなどの状態を触診することもあります。
問診で伝えるポイント
医師の質問 | 伝え方のポイント | 伝え方の例 |
---|---|---|
痛む場所は |
正確な場所を伝える |
・膝の内側 |
痛みはどんな風に |
痛みが生じる状況、 |
・起きたとき |
痛み以外に |
直感的かつ具体的に |
・ズキズキする痛み |
その他の重要な情報(以下についても確認することをお勧めします)
- 骨折や脱臼などのけがをした経験の有無
- ご家族に変形性膝関節症の方がいるか
- 重労働や激しいスポーツ経験の有無
検査
膝の骨の状態や内部の状態をチェックするために、超音波検査、レントゲン検査などの画像検査を実施します。その他、膝の痛みを引き起こす原因疾患を突き止めるために、膝関節内に満ちている関節液を採取して行う関節液検査を検討することもあります。なお、すべての検査が必要になるわけではなく、医師の判断で必要なもののみを実施します。
膝痛の原因探索に行う主な検査
レントゲン検査 | 超音波検査 | 検体検査(関節液・血液) | |
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検査の内容 |
レントゲンで膝を撮影し、骨の変形や角度などをチェックします。 |
超音波で膝を検査し、靱帯や半月板の状態をチェックします。 |
関節液を注射器で採取し、色、粘度、成分などから疾患の有無をチェックします。 |
わかること |
骨の形から変形性膝関節症が疑われる場合は、状況に即した適切な治療を実施します。 |
靱帯や筋肉、半月板などの状態を確認して異常を確認し、変形性膝関節症との鑑別を診断します。 |
関節リウマチ、変形性膝関節症、関節症、偽痛風などの関節に炎症が起こる疾患を突き止めます。 |
検査を行うケース |
診察時点で骨に異常が起こっている疑いがある場合 |
レントゲン検査では異常が見つからなかった場合に、治療方針を定め直す目的でさらに詳細な検査をする場合 |
膝に水が溜まる、腫れがあるといった場合に、変形性膝関節症以外の疾患の疑いがある場合 |
変形性膝関節症の治療
運動療法
重症度に関係なくすべての方に有効な治療法であり、治療ガイドラインでも推奨されています。膝を支える筋力をつけることで、膝への負担軽減、痛みの軽減につながるとされています。また、ストレッチによって筋肉の緊張を和らげると、関節を動かせる範囲の向上と維持にもつながります。
薬物療法
激しい膝の痛みによって運動が難しくなると、筋力低下にもつながります。そして、さらに運動が難しくなり、筋力低下が加速するという悪循環に陥ります。薬物療法ではこの悪循環を防止し、膝の痛みの軽減と運動療法を継続するやる気を保つことを目指します。
ヒアルロン酸注射
膝関節の中は関節液が満ちており、この成分に近いヒアルロン酸を注射することで、関節がスムーズに動かせるようになり、痛みが軽減されます。薬物療法と同時に行うことも多く、保存療法として広く実施されています。
トリガーポイント注射
トリガーポイントとは痛みとこりがある場合にみられる圧痛点のことで、局所麻酔薬を投与することで、血流促進、痛みの解消、筋肉の緊張緩和が期待され、体内で痛みを引き起こす物質を取り除くことにつながります。