ご注意!
この診療は、検査から治療まですべて健康保険が適用されないため完全に自費診療となります。
はじめに
当院では、他院にてSIBOまたは過敏性腸症候群(IBS)の診断を受け、保険治療でも改善がみられない方を対象に、機能性医学的アプローチによる小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の自費診療を行っています。このためこのページには、保険診療では特定できない原因や併存疾患、保険範囲外の検査や治療法などが記載されていることにご留意ください。
SIBO(シーボ)とは
小腸内でバクテリア(細菌)、真菌、イーストなどの微生物が何らかの理由により異常に増殖した状態をSIBO(小腸内細菌異常増殖症)といいます。過敏性腸症候群(IBS)の原因の最大84%がSIBOだといわれています。
SIBOを理解するうえでポイントとなるのは、「本来、腸内細菌のほとんどは大腸に生息しており、小腸にはわずかしかいない」ということ。食物と一緒に入ってくる細菌(バクテリア)、真菌といった微生物は、胃酸や胆汁で殺菌されるため、小腸にはわずかしかいないのが正常なのです。つまりSIBOとは、「間違った場所に」細菌が増殖している状態なのです。
ところで、小腸とはどういった臓器なのでしょうか。
小腸は胃と大腸の間に位置する6~7メートルの腸管であり、主に食物の消化や栄養の吸収を行っています。小腸には栄養が豊富に存在しているため、この場所でひとたび細菌が増殖してしまうと、この豊富な栄養素(主に炭水化物)が発酵され、大量にガス(水素、メタン、硫化水素)が発生して膨満感や腹痛といった症状が出てきます。また、小腸の直径は2.5~3cmほどで、大腸の5cmよりも伸縮性がほとんどありません。このため、ここにガスが溜まると大腸で溜まるよりも膨満感が強くなり、痛みも出ます。さらに、小腸で細菌が増殖すると、本来体内に吸収されるはずの栄養素が細菌に横取りされ、栄養不足に陥ることもあります。特によく不足する栄養素は、鉄、ビタミンB12、A、D、E、Kです。このためSIBOが改善すると、栄養状態も改善され、一見すると腹部の問題とは関係ないような症状も改善することがあります(貧血、疲労、皮膚のできものなど)。
また小腸では、免疫細胞も作られており、全身の免疫細胞の約50%が小腸にあります(大腸には20%)。このため、小腸に異常が起こると、アレルギーなど、免疫に関するトラブルも発生しやすくなります。このことから、SIBOが改善するとアレルギーも一緒に改善するといったことがよくみられます。
このSIBOは、2024年にWHOにより正式な疾患として認められ、新たにICDコード(K63.821)が割り当てられました。しかし、まだ新しい疾患であり、日本では保険が適用されていません。また、学会などによる正式な治療プロトコルもありません。米国などでは、機能性医学医師、自然療法医、栄養療法医などがそれぞれ独自の治療法で診療を行っています。当院では、そのなかで最もよく用いられている治療法および研究論文によってエビデンスが出ている治療法を採用し、ご本人と相談しながら治療を進めます。
SIBOの種類
SIBOは、過剰に産生されるガスによって3つのタイプに分けられます。これは産生されるガスによって、異常に増殖している細菌の種類が異なり、治療法も異なるためです。たとえば、メタン型では、主にMethanobrevibacter smithiiという古細菌が異常に増殖しており、この古細菌に対しては、抗生剤「リファキシミン」に「ネオマイシン」を併用する方が、除菌率が向上します(水素型ではリファキシミンのみを使用することが多い)。ちなみに、最近では、「ネオマイシン」の代わりに「Nアセチルシステイン(NAC)」を併用した研究も進められています[1]。
最近では、SIBOという疾患名は「水素型」のみが該当し、メタン型は「IMO:腸内メタン産生古細菌異常増殖症」、硫化水素型は「ISO:腸内硫化水素産生菌異常増殖症」と呼ぶ動きが出てきています。その理由は、小腸内で異常増殖するのは水素型の細菌のみであり、メタン型と硫化水素型は大腸でも異常増殖して症状を引き起こすことがわかってきたからです。
さらに、メタンを産生する菌は、厳密には「細菌:Bacteria」ではなく、「古細菌:archaea」でありSIBOの「B」にあたらないためです。なお、「SIFO(小腸内真菌異常増殖症)」は厳密にはSIBOではありませんが、増殖する微生物が「細菌」ではなく「真菌(カビ)」である点で異なりますが重複する症状が多いうえSIBOに併発することが多いため、本ページに含めています。
タイプ | 増殖部位 | 種類 | 便通 |
---|---|---|---|
水素型SIBO | 小腸 | 細菌 | 下痢 |
メタン型SIBO(IMO) | 小腸、大腸 | 古細菌 | 便秘 |
硫化水素型SIBO(ISO) | 小腸、大腸 | 細菌 | 重度の下痢 |
SIFO | 小腸 | 真菌 | 下痢・便秘 |
水素型SIBO
SIBOのうち、水素を産生する細菌が小腸で異常に増殖したタイプです。主な水素産生菌として、Faecalibacterium prausnitzii、Roseburia spp.、Bacteroidetes phyla、Firmicutes phylaが挙げられます。水素ガスは腸管の運動を速める働きがあるため下痢を引き起こします。水素型SIBOでは、膨満によりお腹が膨れ、IMOよりもそれが顕著であるといわれています(重症だと妊娠しているくらいの膨らみ)。欧米では除菌に「リファキシミン」という抗生物質やハーブを用いたりしています。
IMO(イーモ):腸内メタン産生菌異常増殖症(メタン型SIBO)
SIBOのうち、メタンを産生する古細菌が小腸や大腸で異常に増殖したタイプです。メタン産生古細菌の例として、Methanobacteriaceae科に属する古細菌、特にMethanobrevibacter smithiiが挙げられます。欧米では除菌に「リファキシミン」に「ネオマイシン」または「メトロニダゾール」という抗生物質の併用療法、また、ハーブによる治療が行われています。IMOは、水素型SIBOよりも治療に難渋するうえ、再発が多いともいわれています。また、水素型SIBOほどお腹の膨らみはひどくなく、朝の起床時は、お腹は平らで、昼食、夕食と経るごとに膨満感が強くなる方が多いです。
IMOについて、以下にまとめます。
- IMOは、食中毒による感染後過敏性腸症候群(PI-IBS)ではきわめて少ないです。
- メタンガスの量が多いほど便秘がひどくなることが報告されています[2]。
- メタンガスが多いからといって必ず症状が出るわけではなく、世界人口の30~50%がメタン産生者であると考えられていますが、その多くは便秘等の症状を示しません。
- メタンガスは腸管内の食物の移動速度を遅くさせる作用があるため[3]、水素型SIBOよりも食物が腸管内にとどまる時間が長くなります。この食物の停滞により古細菌がさらに増殖するという悪循環に陥るため、水素型SIBOよりも治療に難渋することが多いといわれています。
- 適度のメタンガスは、腸内の水素を減らし、細菌が酪酸を産生するのを促進します。酪酸は腸管バリア機能の維持や炎症の抑制といった有益な働きが多くあります。
- Bifidobacterium lactis HN019は、腸の通過時間を短縮する効果が示されています[4]。
- メタン産生古細菌は特に便が固体になる左結腸に存在しますが、Methanobrevibacter smithiiは十二指腸にも存在することが判明しており、この部位の全バクテリアの20%を占めます[5]。
- Methanobrevibacter smithiiやMethanosphaera stadtmanaeといった古細菌は、強固なバイオフィルムを形成することが多く、水素型よりもリファキシミンなどの抗生物質が効きにくいです。
- 水素は酪酸の生成を刺激します。ところが、古細菌が増殖して水素を消費すると、腸管内の水素量が減り、酪酸の産生が低下します[6]。酪酸は、腸管の運動促進、腸内細菌叢のバランス維持、腸粘膜の健康維持など、たくさんの有益な働きがあります。
- メタン産生古細菌は新生児の糞便からも検出されていることから、母親の膣や腸内細菌が重要な供給源となっていると考えられています。ただし、3歳未満では呼気ガスでメタンが検出されることはなく、その後青年期までに成人の濃度に達します。
- IMOは、ピロリ菌が原因であることも多いです[7]。
- 以前は、水素産生菌の過剰増殖(水素型SIBO)によって水素が過剰に産生され、それが古細菌のエサになりIMOになると考えられていましたが、Dr.Pimentelの研究により、小腸内の常在菌であるChristensenellaceae および Rimunococcaceae(共生細菌)から水素を得ていることが判明しています。
- 古細菌は、食物から余分なカロリーを抽出するのをサポートする働きがあるため、オビソゲン(肥満原因物質)としても知られています。古細菌は腸内細菌のグリカンの消化能力を高める作用があり、これにより体が吸収するカロリー量が増加します。さらに、メタンガスにより食物が腸管内に長くとどまることから、その分吸収されるカロリー量が増加します。
- 腸内のメタン産生とHbA1cの上昇が関連しているとする研究があり[8]、メタン産生菌の除菌後、HbA1cの値が著しく改善したとの報告もあります。これに関連して、代謝性エンドトキシン血症が体重増加とインスリン抵抗性を引き起こすことが明らかになっています。
- ある研究では、Lactobacillus reuterii (DSM 17938)を4週間投与したところ、メタンの産生が著しく減少し、被験者の55%に呼気ガス検査で完全なメタンの消失がみられたとのことです[9]。一方で、有益菌のひとつであるBifidobacterium infantis (35624)はメタンを増加させることが知られています。
- 炎症性腸疾患患者ではメタン産生菌が少ないことが確認されています。
ISO(イーソ):硫化水素産生菌過剰増殖症(硫化水素型SIBO)
SIBOのうち、硫化水素を産生する細菌が小腸や大腸で異常に増殖したタイプです。主な硫化水素産生菌の例として、Bacteroides fragilis、Pseudomonas aeruginosa、Klebsiella spp.などが挙げられます。水素優位型SIBOと同様に下痢を主症状としますが、腹痛の程度が強い傾向があります。また、硫化水素は微生物だけでなく人体も産生しており、適切な量であれば細胞を酸化ストレスから保護する効果がある一方、ミトコンドリアへの毒性や大腸がんリスクの増大といった問題があります。硫化水素型は、他の型に比べて再発しにくいといわれています。 これまでSIBOの呼気検査は、水素とメタンを測定する検査がありましたが、Trioスマートという検査は、硫化水素も測定でき、ISOの診断が可能になっています(当院で検査できます)。
SIFO(シーフォ):小腸内真菌異常増殖症
小腸内でイーストなどの真菌が異常に増殖して、SIBOと同じような症状を引き起こす疾患です。真菌の中でも、特にカンジダの異常増殖がよくみられます。舌が白くなっていたり、異常に甘いものを欲したり、炭水化物や糖類を摂取した後に膨満感が出たりする場合、SIFOの可能性があります。また、高血糖でもカンジダが増殖する可能性があります。
カンジダなどの真菌は、代謝の過程でアセトアルデヒドという物質を産生します。このアセトアルデヒドはお酒を飲んだ後に発生する有害物質として知られていますが、代謝するのにビタミンB1、ビタミンB2、鉄などの栄養素を必要とします。SIFOによってアセトアルデヒドが増加するとこれらの栄養素が消費され、二次的な栄養欠乏を引き起こす可能性があり、これが慢性疲労の一因となる可能性があります。
SIBOの治療を行っても改善がみられない場合はSIFOが隠れている可能性があります。SIFOは水素型のSIBOよりも治療に難渋することが多いです。その理由のひとつに、真菌は強固なバイオフィルムを形成することが多いということが挙げられます。そのためSIFOの治療では、バイオフィルムの対策が必要になることがあります。また、治療の過程でダイオフが起きやすいのも特徴です。
SIFOの原因菌である真菌は、細菌のようなガスではなく、炭素を産生し、これが細菌のエサとなって細菌を増殖させるとの意見があります。これが、SIFOとSIBOの併発が多い理由のひとつかもしれません。SIFOはSIBOの呼気検査では検出できないため、有機酸検査を用います。
SIBOでよくみられる症状
SIBOの症状は人によって異なりますが、主に以下のものが挙げられます。
腹部膨満感(お腹の張り)
SIBOの最も特徴的な症状です。小腸内でガス(水素、メタン、硫化水素)が過剰に産生されるため、お腹が張ります。特に発酵しやすい食物を摂った後に顕著であり、低FODMAP食で改善することが多いです。夕食に発酵しやすい食物を食べてしまうと腹部の膨満感で睡眠の質が下がることから、影響が全身に及ぶこともあります。また、小腸が膨れると、これが胃に知らされ、胃の内容物が小腸に送られなくなります(胃不全麻痺:Gastroparesis)。
SIBOおよびIBS研究の第一人者として知られるロサンゼルスCedars-Sinai Medical CenterのDr.Pimentelによると、SIBO患者の小腸では、細菌の半分が「大腸菌」と「クレブシエラ・アエロゲネス」という、たった2種類の細菌で牛耳られており、これが増殖していると健常者よりも63倍も発酵能力が高いとのことです。
腹痛
腹部膨満と関連し、小腸がガスで満たされて膨らみ、神経を圧迫し、痛みが生じます。また、SIBOによって小腸に炎症が起こっている可能性も高く、この炎症が痛みの元になります。なお、痛みや不快な膨満感は、単にガスが溜まっているからではなく、SIBOによって内臓過敏になっているからだという意見もあります。
下痢
細菌が産生するガスが水素または硫化水素であると下痢が生じます。つまり、下痢を症状とするSIBOの場合、水素産生菌または硫化水素産生菌が異常に増殖している可能性が高いです。これは水素ガスによって食物の腸管通過時間が短くなるからだと考えられています。
このほか、SIBOによる胆汁酸吸収不良によっても下痢を起こすことがあります。
便秘
メタン産生菌が異常に増殖すると便秘を起こします。これはメタンガスによって腸の動きが遅くなり、便の停滞時間が長くなるためです。便が長く腸内にとどまると、水分が必要以上に失われ、腸管内での移動が悪くなります。下痢はなく、便秘があるSIBOの場合、IMO(メタン型SIBO)である可能性がきわめて高いです。
げっぷ・胃酸の逆流(GERD)
小腸内で過剰に産生されたガスが「げっぷ」として出ます。また、過剰なガスのため腹圧が上がり、川でたとえるなら、下流から上流方向への圧が生じ、胃が膨張します。このガスを排出するために、食道と胃の間で蓋の役目をしている下部食道括約筋が一時的に弛緩してガスが排出されます(一過性下部食道括約筋弛緩という)。この一過性下部食道括約筋弛緩が頻回に起こり「げっぷ」や「胃酸の逆流」が生じます。なお、この胃酸逆流については、特に水素型SIBOでよくみられ、メタン型(IMO)ではあまりみられないとのデータもあります[10]。胃酸を抑える薬でも逆流性食道炎が改善されないケースでは、SIBOに罹患している可能性もあります。
疲労・ブレインフォグ
細菌が産生する毒素によって疲労・ブレインフォグを感じることがあります。また、細菌によって栄養の吸収が阻害されることも疲労・ブレインフォグにつながります。さらに、Klebsiella pneumoniaeなどの細菌が産生するLPSが、リーキーガットにより血流に乗り、脳に達することでもこれらの症状が起こります。
足がむずむずする(むずむず脚症候群)
主に寝るときやじっとしているときに足に不快感が生じ、じっとしていられないようになる状態です。SIBOによって鉄欠乏が生じたためではないかと考えられています。
SIBOの原因
MMC(Migrating Motor Complex:伝播性消化管収縮運動)の低下
SIBOの最も一般的な原因です。MMCとは、簡単にいえばお腹が空いたときに「ぐ~」と鳴る、あれです。このとき、胃と小腸では90~120分ごとに波のような腸管運動が起こり、細菌や未消化物を大腸に移動させるクリーニングを行っています。またMMCは、胆汁や膵酵素の分泌を促し消化を助ける働きがあります。しかし、何らかの原因によりこのMMCの機能が低下すると、小腸に細菌や真菌などが増殖してしまいSIBOを引き起こします。
MMCは、空腹時にしか発生しないため、間食が多かったり、一度に大量の水分を何回も摂取したりするとMMCの発生が遮られてしまいます。このため、食事の間隔を4~5時間はあけるのが望ましいといえます。
食中毒による感染後過敏性腸症候群(PI-IBS)に罹患すると、自己免疫反応によってこのMMCが遮られることもあります。また、胃腸の運動を司る迷走神経が、長期の高血糖状態(糖尿病)により損傷を受け、これによりMMCの機能が低下することもあります。このほか、MMCの障害の原因として以下が挙げられます。
- 甲状腺機能低下症
- エーラス・ダンロス症候群
- 筋肉の疾患(筋ジストロフィーなど)
- ストレス
- 感染症
- 薬剤(オピオイドなど)
- 胆汁の分泌が少ない
- 術後の癒着など
Dr.Pimentelが行った研究では、IBSおよびSIBO患者の50%で、6時間の間にMMCが全くみられなかったとのことです(健常者では2回以上)。したがって、SIBOではこのMMCの機能を改善させることがきわめて重要です。除菌治療によって細菌を減らしても、このMMCの機能が改善していないとまたSIBOを引き起こしてしまいます。これが、SIBOの再発率が高いといわれている原因かもしれません。
このMMCの機能を促すには、プロキネティクス(腸管運動促進剤)と呼ばれる食材(ショウガなど)や薬剤、サプリメントを用います。プロキネティクスは、再発を予防する目的で、治療の後半で使用することが多いです。これは、腸に炎症があると腸の収縮能が著しく低下しており腸管運動が満足に行えないためであり、まずは細菌叢を整えながら炎症を鎮めてからプロキネティクスを使用する方が得策であるためです。ただし、過去の手術により癒着がある場合、プロキネティクスにより痛みが出ることがあります。また、プロキネティクスの効果で食物の通過が速められることで下痢を起こすことや、膨満感が悪化する場合もあることに注意しておく必要があります。
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胃酸・胆汁が少ない
胃の中は胃酸によって非常に強い酸性で保たれており、飲食物と一緒に入って来る細菌、特に酸に弱い細菌などはこの強い酸によって死滅します。一方、胆汁は、アルカリ性であるため、アルカリに弱い細菌を抑制します。つまり食物は、胃酸と胆汁によって、ほとんどの細菌が不活化された状態で小腸に送られるというわけです。また、胆汁は、脂肪やタンパク質を分解して吸収しやすくするだけでなく、消化管の運動を刺激する働きもあります。
胆汁は、十二指腸に流れ込む酸性の胃酸を中和するために分泌されます。しかし、何らかの原因により胃酸が低下していると、胆汁の分泌が悪くなってしまいます。これが起こると、大量の細菌が生きたまま小腸に送られてしまうことになり、SIBOが発生します。このほか胆汁は、腸の蠕動運動や水分の分泌を促す働きがあるため、不足すると便秘を引き起こすこともあります(分泌された胆汁の95%は小腸で再吸収され、残りは大腸に送られる)。ただし、大腸に送られる胆汁の量が多くなると下痢を引き起こすことがあります。
胃酸の分泌が低下する原因には、以下があります。
- 胃酸を抑える薬の長期使用(プロトンポンプ阻害剤)
- 加齢
- ストレス
- 栄養不足(亜鉛、ビタミンB12,鉄、カルシウム、マグネシウムなど)
- 胃の切除手術、自己免疫性胃炎
- 萎縮性胃炎
胃酸が少ないか確認する方法(重曹テスト)
- 空腹時に、小さじ1/3(2グラム)の重曹を水に溶かして飲む。
- その後3分以内にげっぷが出なければ「胃酸低下」の疑いあり。
※このテストはあくまでも目安です。
プロトンポンプ阻害剤(PPI)を長期に使用している場合、腸内に入る酸性水素が少なくなっており、これに連動して水素をエサとするメタン産生古細菌も少ない傾向にあります。したがって、特に重度のIMO(メタン型SIBO)では、ベタインHCLやアップルサイダービネガーを摂取して胃酸の分泌を促すと、メタン産生古細菌にエサを与えることになり、症状が悪化する場合もあるため、様子をみながら少しずつ摂取するとよいでしょう(Dr. Pimentel)。
ある研究によると、胆汁酸がメタンの生成を抑制することが明らかになっており、胆汁の流れが悪い患者でメタンの過剰生成が確認されています。そういった患者に胆汁の流れを改善する手術を行ったところメタンの生成が著しく低下したとの報告もあります[11]。このため、重度のIMO(メタン型SIBO)では胆汁にも注目する必要があります。
薬剤の長期使用
胃酸を抑える薬(PPI)、抗生剤、免疫抑制剤、鎮痛薬(オピオイド)など。抗生剤を長期に使用すると腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)が起こり、SIBOを発症しやすくなります。
感染後過敏性腸症候群(PI-IBS)
食中毒により過敏性腸症候群を起こすことがあります。PI-IBSではMMCの働きが悪くなり、SIBOの原因になります。詳しくはこちらをご覧ください。
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解剖学的構造の異常
腸管に構造的な異常があると、食物や細菌の通過が滞りSIBOの発症リスクが高まります。
この解剖学的異常には、術後の癒着、クローン病による狭窄、小腸憩室症などが挙げられます。また、小腸と大腸の間で蓋の役目をしている回盲弁の機能不全も挙げられます。この弁が開いたままになり大腸に生息する細菌が小腸に侵入して増殖するという意見と、この弁の開きが悪くなり、食物の通過が阻害され小腸内で細菌が増殖するという意見があります。
SIBOに関連する疾患
過敏性腸症候群(IBS)
IBSは、腹痛、下痢、便秘などの症状を繰り返す病気です。 SIBOとIBSは症状が似ているだけでなく、SIBOがIBSの原因となる場合もあると考えられています。SIBOを治療することでIBSの症状が改善するケースも少なくありません。
リーキーガット症候群
グルテン食やアルコールの過剰摂取、ディスバイオシスなどにより小腸のバリア機能が低下し、腸管内の物質が血液中に漏れ出すことで、さまざまな症状を引き起こすとされる状態です。SIBOによって腸管内に炎症が起こると、腸管バリア機能が損なわれ、リーキーガット症候群のリスクが高まります。
たとえば、細菌はLPS(リポ多糖)と呼ばれる毒素を放出しますが、リーキーガットによって粘膜の透過性が高まっていると、このLPSが腸管バリアを突破して血流に乗ります。その結果、腸以外の部位でも炎症が引き起こされる可能性があります。もうひとつ厄介なことは、このLPSは脳血液関門というバリアも通過して脳内にも侵入する場合があります。このように、脳から遠い腹部で起こっていることが脳にも影響を及ぼすことがあります。
SIBOでは、このリーキーガットも併発していることが多いため、SIBOの治療ではリーキーガットに対する治療も合わせて行うことが多いです。
甲状腺機能低下症
SIBOは、ホルモンバランスに影響を与える可能性があり、特に、甲状腺ホルモンとSIBOの関係が指摘されています。甲状腺機能が低下すると、消化管運動の低下や便秘などを引き起こし、SIBOのリスクを高める可能性があります。また甲状腺機能低下症の方では胃酸の分泌が少ない傾向にあります。胃酸の低下もSIBOの発症リスクを高めます。レボチロキシンを長期に使用しているとSIBOの発症率が3倍になるとのデータもあります。
また、SIBOが甲状腺機能に影響を与える可能性も示唆されています。甲状腺はT4と呼ばれる不活性型のホルモンを分泌し、その後活性型のT3に変換されて細胞で利用されます。この変換は主に肝臓で行われるのですが、T4の約20%は腸内細菌で変換されるといわれています。このため、SIBOによって腸内細菌叢が健康でないと、この変換がうまく行われなくなります。
SIBOの検査
呼気検査
体に負担がなく、自宅で簡単に呼気を収集できるため、SIBOに広く用いられている検査です。糖質(グルコース、ラクツロース、またはフルクトース)を摂取して、一定時間後に呼気を複数回収集して検査会社に送付します。検査会社にて各呼気ガスに含まれるガス(水素、メタン、硫化水素)の量を測定します。基準値を超えるガスが検出された場合、そのガスのSIBOが陽性だということがわかります。当院では、水素とメタンを測定する検査と、それに硫化水素を加えた検査の2種類があります。
小腸内視鏡検査(空腸吸引液培養)
内視鏡で小腸までアクセスし、内視鏡の先端から小腸液を吸引します。その液を培養して、細菌の種類などを調べる検査です。体に負担がかかるのが最大のデメリットです。呼気検査、便検査よりも正確であるといわれていますが、内視鏡が小腸に到達するまで、内視鏡の先端が他の部位の菌に触れており、吸引時にこれが影響しないのかといった点が指摘されています。また、小腸のどの部位から吸引するのかといった問題もあります。当院では、内視鏡検査の設備を有していないためこの検査は行っておりません。
有機酸検査(OAT)
SIBO検査というよりも、真菌の異常増殖(SIFO)の検査に該当します。当院で受けることができます。
GI-MAP
病原体、ピロリ菌、常在細菌、日和見細菌、過剰増殖細菌、菌類/酵母、ウイルス、寄生虫について調べる便検査です。水素産生菌、メタン産生菌、硫化水素産生菌、ヒスタミン産生菌、LPS産生菌が増殖していないかも調べることができます。一般的に便検査は、大腸での状態を表していることが多いため、特に大腸でも異常増殖するIMOやISOに用いるとよいと思われます。また、さまざまな治療を行ってもSIBOが改善しない場合に、本検査で寄生虫やピロリ菌の有無を調べるという方法もあります。
GI-MAPは当院で受けることができます。
IBS Smart
抗CdtB抗体と抗Vinculin抗体を測定する血液検査で、SIBO、特に食中毒後のSIBO(感染後IBS)の可能性を調べます。当院で受けることができます。
腸管バリアパネル
カンジダ(菌)、ゾヌリン(タンパク質)、オクルディン(タンパク質)の抗体を調べ、リーキーガットの有無を確認する血液検査です。この検査でこれらの抗体が陽性と出た場合、これらの物質が腸管バリアを突破して血流に流入したことを示します。
栄養解析検査
70にも及ぶ栄養に関連する項目を調べる血液検査です。直接SIBOを特定する検査ではありませんが、SIBOでは特定の栄養が不足していることが多いうえ、不足しているからこそSIBOが悪化している場合も少なくありません。ダメージを受けている腸粘膜を再生させるには特定の栄養素が必要です。胃酸の分泌が低下しているのは、胃酸を作るのに必要な栄養素が不足しているからかもしれません。せっかく除菌に成功しても、栄養が不足したままだと再発する可能性が高まります。当院は栄養療法も得意としており、治療中のみならず、症状が解消された後も、再発防止の観点から、栄養療法外来にてフォローアップを受けることができます。
SIBOの治療
SIBOの治療は、原因や症状、重症度によって異なりますが、当院では、「除菌」、「食事療法・栄養療法」、「腸の修復(リーキーガット対策)」、「腸内細菌叢の修復」、「腸管運動の促進」、「生活習慣の改善」を柱に行います。ただしこれらは、症状やそのときの状況に応じて、同時に行ったり、順を変えて行ったりします。
抗菌ハーブ
植物のエキスであるハーブは、植物たちがさまざまな外敵(寄生虫、カビ、細菌など)から自分たちを守る抗菌性のアルカロイドであり、その抗菌作用はSIBOやSIFOの治療において抗生物質とほぼ同等であるという研究もあります[12]。
ハーブ療法は、4週間(ガスが多い場合は6週間)を1クールとして、改善の状況をみながら行います。
抗生物質
SIBO治療で最もよく用いられる抗生物質は「リファキシミン」です。体内に吸収されないため副作用が少ないのが特徴です。細菌は、活動が活発である程、リファキシミンなどの抗生物質を吸収するという特性があるため、プレバイオティクスなどを摂取して細菌の活動を高めてから(ただし症状が強くなる)、リファキシミンを投与する方が、効果が高いという意見もあります。また、リファキシミンは主に細菌を対象としているため、古細菌が原因であるIMO(メタン型SIBO)では、リファキシミン単剤で治療することは少ないです。
リファキシミンの特徴
- 酵母(カンジダ)の過剰増殖を引き起こさない。
- 細菌のプラスミドを減少させることで抗生物質耐性を低下させる。
- 耐性が発生しにくい。
- 抗炎症作用があり、腸内の炎症性サイトカインを減少させ、PXR遺伝子を介してNF-kBを抑制する。
- 大腸内の善玉菌を増やすことが示唆されている。
漢方
特に漢方は当院が得意とする分野です。症状の軽減を図ったり、根本原因に直接アプローチしてSIBOの治療効果を加速・維持させたりすることができます。たとえば、体を温めて腸管の運動を促進する漢方や、胆汁の分泌を促すもの、ディスバイオシスを改善するものなどを用いるといった具合です。
プロバイオティクス
プロバイオティクスとは『腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物』と定義されています。具体的には、ヨーグルト、キムチ、納豆などの発酵食品に含まれる菌やサプリメントなどが挙げられます。発酵食品に含まれる生菌の数は非常に多いのですが、その分ヒスタミンも多く含まれているため、特にリーキーガットを併発して、ヒスタミン不耐症やMCAS(マスト細胞活性化症候群)状態になっている方では発酵食品を摂取すると症状が悪化します。
プロバイオティクスは、腸内細菌叢のバランスを改善するほか、消化酵素のサポート、免疫力の向上、腸管運動の改善、ヒスタミンの抑制、腸脳相関の調節、リーキーガットの改善など、実に多くの効果を期待できます。さらに、プロバイオティクスは細菌でありながら、それ自体に抗菌作用や抗真菌作用もあります。
このようにプロバイオティクスは多くのメリットがありますが、効果がみられるまで2~3ヵ月を要することが多いです。さらに、人によっては症状が悪化する場合があります。この場合、しばらく使用を控えたり、少量から始めたり、種類を変更したりして対応します。SIBOの症状が軽いケースでは、除菌療法を行わず、プロバイオティクスと食事療法だけでも改善される場合があります。
SIBOやSIFOに用いるプロバイオティクスの種類は多いですが、一般的に、「乳酸菌」、「ビフィズス菌」、「胞子形成細菌(バチルス属)」、「Saccharomyces boulardii」が用いられることが多いです。乳酸菌やビフィズス菌は善玉菌としてよく知られており、これらを用いるのは当然ですが、「胞子形成細菌」も有用です。胞子形成細菌は芽胞という多層構造のバリアによって胃酸などから保護されてダメージを受けることなく腸に達し、腸内で3~4週間もとどまるといわれています(通常のプロバイオティクスは数日)。
「Saccharomyces boulardii」は酵母の1種です。腸内で定着しないため定期的に摂取する必要があります。
プロバイオティクスに加え、プレバイオティクスも考慮します。プレバイオティクスは微生物のエサであるオリゴ糖や食物繊維などがこれにあたります。プレバイオティクスとしては、イヌリン、レジスタントスターチ、部分加水グアーガムなどがあります。ただし、まだ小腸で細菌が過剰になっている状態でエサを与えてしまうと、さらに増殖を促すことになり、症状が悪化してしまいます。このため、プレバイオティクスは、除菌後、過剰増殖が治まったと思われるタイミングに摂取を開始します。プロバイオティクスサプリの中には、細菌だけでなく、このプレバイオティクスが含まれているものも多くあります(シンバイオティクスと呼ぶ)。SIBO治療の初期にこれを摂取してしまうと症状が悪化する場合がありますので、この時期では、シンバイオティクスは避けた方がよいでしょう。
食物繊維が少ないと、ムチン(腸粘膜の成分)を利用・分解する細菌(Bifidobacterium bifidumやアッカーマンシアなど)が増殖します。これらの細菌はムチンをエネルギー源として利用して、短鎖脂肪酸という有益な成分を産生したり、腸内環境を維持したりするのですが、異常に増殖してしまうと、ムチンが過剰に消費され、リーキーガットやSIBOの悪化につながるおそれがあります。このため、しかるべきタイミングで、プレバイオティクスを導入することが重要です。
低FODMATダイエット
発酵しやすいオリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオールが含まれる食品(FODMAP食)を制限することで、SIBOの症状を緩和する食事療法です。FODMAPを多く含む食品は、小腸内で発酵しやすく、ガスの産生や腹痛などの症状を引き起こします。 また、人工甘味料は特に注意が必要です。実は、砂糖は多くが小腸で吸収されるため細菌にすべてが届きませんが、人工甘味料は体内に吸収されず、ほぼすべてが細菌に届いてしまうからです。なお、人工甘味料でもアスパルテームはタンパク質であるためSIBOでは問題ないとされていますが、アスパルテームは発癌性が疑われているため避けた方がよいでしょう。
低FODMAPダイエットでは、これらの食品を避け、消化しやすい食品を中心に摂取します。低FODMAPダイエットの効果は多くの臨床研究により明らかになっており、過敏性腸症候群患者の50~80%に症状の改善がみられたとの報告があります[13]。これは低FODMAPダイエットによりリーキーガットや炎症、ヒスタミンが減少し、その結果、腸内細菌叢と腸の健康状態が改善したのではいかとされています。
低FODMAPダイエットは、SIBOの重症度にもよりますが、4週間程度を目処に行うとよいでしょう。ただし低FODMAPは、個人によって合わない場合もあるうえ、長期に及ぶと栄養不足に陥るほか、細菌叢のバランスをさらに崩すおそれもあります(乳酸菌、ルミノコッカス、アッカーマンシアなどの善玉菌が減少する)。さらに、厳格な低FODMAP食は心理的に困難です。このため状況をみながら緩やかな低FODMAPダイエットや、特定炭水化物ダイエット(特定の炭水化物を制限し、消化しやすい単糖類や二糖類を摂取する)でも症状を軽減できることもあります。
エレメンタルダイエット
エレメンタルダイエットは、消化管に負担をかけない特殊な液体栄養剤(日本ではエレンタールという製品を使うことが多い)を用いる食事療法です。この液体栄養剤は、すでに消化された状態であるため、小腸の上部(最初の60cm部分)で吸収されます。これにより、小腸の下部で増殖することが多いSIBOの細菌にエサが供給されなくなり細菌の増殖が抑制されます。2週間の実施で約80%、3週間の実施で約85%のSIBO患者に症状の改善がみられたとの報告があります[14]。ただし、エレメンタルダイエットは、高価であること、味が単調であること、体重減少のリスクがあるといったデメリットも考慮しなくてはなりません。この研究では、すべての食事をエレメンタルダイエットに置き換えており、果たして2週間もの間、液体栄養剤のみを続けられるかどうかといった問題もあります。このため、エレメンタルダイエットは、治療のファーストチョイスではなく、他の治療で改善がみられなかった場合の、ある意味最終的な手段として位置づけている医師も多いです。当院でも、ファーストチョイスではなく、除菌やプロバイオティクスなどを試みても改善がみられない場合や、ご本人からご希望があった場合にエレンタールによる治療を行います。
栄養療法
SIBOでは、小腸で増殖した細菌や真菌に栄養素が奪われ、栄養不足になっていることも少なくありません。また、SIBO治療で重要な胃酸、胆汁、消化酵素の産生にはいくつかの栄養素が必要不可欠です。たとえば、胃酸は、非常に大きなエネルギーと栄養素を費やして作り出されています。小腸の傷ついた粘膜の修復にもたくさんの栄養が使われます。抗菌剤や抗菌ハーブ、プロバイオティクスなどで一旦は症状が治まっても、栄養が不足したままだと、たとえば胃酸が低下したままであったり、胆汁が少ないままであったり、あるいは腸粘膜の修復が不完全であったりと、SIBOが再発する可能性があります。このため、特に重症のケースでは、栄養療法もしっかりと行った方がよいといえます。SIBO治療では、低FODMAPダイエットなど、通常の食事を制限することが一般的であるため、また、SIBOでは著しい栄養不足であることが多いため、栄養療法はきわめて重要です。
生活習慣の改善
過剰なアルコール摂取を控える、運動不足を解消する、時間をかけてよく噛んで食べるなど、生活習慣を改善することで治療の効果を加速させたり、再発を予防したりすることが期待できます。生活習慣を変えることはなかなか大変ですが、体全体の健康にとっても有益です。たとえば、「朝起床したらすぐに歯を磨く」などです。口腔内の細菌や真菌は腸管にも下りていることが確認されています。 歯みがきを「1日1回」行うグループと「毎食後」行うグループを比較した研究では、「毎食後」のグループの方が便中のカンジダ量が10~100倍少なかったというデータが示されています[15]。また、十分な咀嚼は消化を助けるだけでなく、腸管の運動促進や腸内細菌叢の多様性維持といった効果もあります[16]。
治療に並行してさまざまな生活習慣の改善をアドバイスします。
バイオフィルム対策
バイオフィルム対策は、すべてのSIBO治療で行うわけではありませんが、抗生剤や抗菌ハーブ、プロバイオティクスを試みても症状が改善されない場合、バイオフィルムの対策を検討します。 バイオフィルムとは、微生物が自分を守るために生成する細胞外高分子物質のことで、その中には多くの細菌や真菌が存在し、コロニーを形成しています。川や海の岩場などでぬるぬるしたものに足を取られて滑ってしまう、あの「ぬるぬるした物質」です。腸内でも同じように細菌や真菌によってバイオフィルムが形成されます。内視鏡を用いてバイオフィルムの有無を調べた研究では、IBS患者の57%、潰瘍性大腸炎患者の34%、クローン病患者の22%、健常者の6%にバイオフィルムの形成が確認されています[17]。
腸内細菌が腸内で取り得る形態としては、浮遊している場合と、バイオフィルムを形成して腸管の表面に定着している場合があります。抗生物質などは、浮遊菌を効果的に攻撃できるのですが、バイオフィルムで保護された細菌は、抗生物質に対する耐性が最大で1000倍にも及ぶといわれています[19]。また、慢性的にバイオフィルムが形成された細菌感染では、抗生物質だけでなく免疫に対しても抵抗力が強くなるといわれています。
微生物は細胞シグナル伝達を介して互いにコミュニケーションをとっており、クオラムセンシングと呼ばれるメカニズムによって、同じ種類の細胞が一緒にコロニーを形成し、環境の変化に適応すべく集団行動をとっています。このため、このクオラムセンシングを妨害してバイオフィルムを破壊する食品やサプリメントを用いる必要があります。バイオフィルム除去剤を使用した後、便検査などで新たに細菌の感染が発見される場合があります。これは、バイオフィルムが破壊されたことで細菌が検出されるようになるためです。このため便検査を行う場合、バイオフィルムの除去療法をある程度行ってから行う方がよいとする意見もあります。
よくある質問
検査を受けないと治療は受けられませんか?
検査を受けるのが理想的ではありますが、SIBOに関する検査は自費であり、高額なものが多いため、ご本人の希望を尊重して治療を行います。ただし検査なしで治療を行った場合、治療が遠回りとなることがありますのであらかじめご了承願います。
SIBOの治療に保険はききますか?
現在、SIBO治療に保険は適用されていません。このため、診察から検査、さらに治療に用いる薬剤やサプリメントに至るまですべて自費で負担していただきます。
治療は受けず、検査のみ受けることはできますか?
はい、検査のみも可能です。当院のバイオメディカル検査メニューをご覧のうえお電話にて予約をおとりください。
検査料の支払い方法は?
検査料は前払いでお願いします(クレジットカード利用可能)。SIBO・IBS外来の検査では、お支払い後に検査キットを発注します。なお、ご本人都合によるキャンセルはできませんのでご注意ください。
内視鏡検査は受けられますか?
申し訳ありませんが、当院は内視鏡検査の設備を有しておりません。
SIBO外来の予約方法は?
申し訳ありませんが、現在SIBO外来はWEB予約に対応しておりません。診療時間内にお電話にて予約をおとりください。
当院のSIBO・IBS外来の受診を検討されている方へ
SIBOやIBSはまだわかっていないことが多く、この治療の先進国である米国でも消化器内科医や自然療法医、機能性医学医など、さまざまな分野の医師が、ある意味「手探り」の状態で試行錯誤をしながら治療を行っているのが現状です。
たとえば、保険診療で用いる薬は、臨床試験を経て効果的な用量が確認されたうえで販売されていますが、SIBO治療の分野ではこれがありません。さらにいえば、用量だけでなく、薬剤やサプリメントの種類、使用頻度やタイミングなども同じです。このため当院では、正式に公開されている論文のエビデンスやデータに加え、米国でこの分野を牽引する医師たちが提唱するプロトコルを基準にして治療を行うとともに、常に情報のアップデートに努めています。
なお、当院は内視鏡検査の設備を有していないため、他院にて精密検査を受けて、他の重大な疾患がないことが確認されている方のみを対象としております。精密検査を受けられていない方、または最後に受けられてから一定の期間が経過している方については、精密検査のため他院を紹介することがありますのであらかじめご了承願います。
SIBO外来の費用
診療メニュー | 料金(税込み) |
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カウンセリング料 | 最初の30分:5,500円 その後15分ごと:3,300円 |
検査 | バイオメディカル検査一覧を参照してください |
サプリメント等 | 10,000円前後から |
※完全予約制です。初診の予約は必ずお電話でおとりください。
※サプリメントや医薬品の費用は、症状や重症度等によって大きく異なります。