腱鞘炎とばね指とは
指にある靱帯性腱鞘は、指の付け根付近にかかる負荷が大きくなると炎症が起きることがあります。そして、腱や腱鞘も炎症を起こし(腱鞘炎)、悪化すると引っかかるようになってばね現象(ばね指)が起こります。
ばね指の症状
- 手のひらの指の付け根で、腫れ、圧痛、熱感がある
- 指を曲げ伸ばししようとすると、引っかかるように感じる
- 朝起きたときに指がこわばって上手く動かせない
- 指を曲げると元に戻せない
- 曲げた指をなんとか戻そうとするとばね現象が起こる
上記のひとつでも心当たりがある方は、ばね指を発症しているおそれがあります。
ばね指はすべての指で発症するリスクがありますが、中指、薬指、親指で起こることが多いといわれています。また、朝起きたときに症状が強く現れ、日中や手を動かすと症状は治まっていきます。
発症間もない頃は軽度の違和感や痛みが生じる程度で、安静にすれば快方に向かうケースがほとんどです。しかし、病状が悪化すると、ばね現象や激しい痛みが生じるようになり、深刻なケースでは指を全く動かせなくなりますので、注意が必要です。
ばね指の原因
ばね指を引き起こす要因は以下のとおりです。
指を酷使している
日常生活で指や手を使い過ぎている方は、腱鞘や腱に絶えず負担がかかっているため、炎症のリスクが高いとされています。特に、以下のような動作によってばね指の発症を招くとされていますので、注意が必要です。
- マウスやキーボードの使用
- テニス、ゴルフなど手をよく使うスポーツ
- ピアノなど指を頻繁に使う楽器の演奏
ホルモンバランスの変化
女性は、妊娠や閉経など生涯をとおしてホルモンバランスが乱れやすくなります。
加齢に伴って女性ホルモンの分泌量が減少すると、骨密度や筋肉量の低下を招くほか、腱鞘や腱が弱体化してダメージを受けやすくなるため、ばね指の発症リスクも上昇します。
ばね指の検査
ばね指は以下の方法で診断します。
問診・触診
問診や触診によって、指の痛み、腫れ、ばね現象の有無などをチェックします。
レントゲン
ばね指は、腱と腱鞘に起こる炎症のためレントゲンで確認することはできませんが、類似疾患との鑑別や骨の異常を確認するため、レントゲン検査を実施することもあります。
エコー
昨今では高性能の超音波機器が登場しており、整形外科の現場でも一般的に用いられるようになっています。レントゲン検査で骨の異常が見つからなかった場合でも、超音波検査で腱や筋肉といった軟部組織を確認することで、患部の状態を詳細に観察できたり、発症原因を突き止めることができたりと、その有用性は大きく、診療でよく活用されています。
ばね指の治療
保存的療法
安静にする
症状が軽ければ、酷使をしないように心がけ、安静にすることで症状が良くなることもあります。患部になるべく負担をかけないように、暫定的な処置としてサポーター、テーピング、副木(そえぎ)などを使って患部が動かないようにすることもあります。
鎮痛剤の処方
炎症抑制と痛みの解消を目的として、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)、塗り薬、湿布などを処方します。
腱鞘内ステロイド注射
激しい痛みで日常生活にも支障をきたしている場合は、炎症部位の腱鞘に局所麻酔薬とステロイド剤を直接投与します。
特に、「トリアムシノロン」というステロイド剤の効果が高いといわれており、個人差はありますが、一度投与すると3〜6ヵ月程度は効果が期待できるとされています。
一度の治療で完治できることもある一方で、治療効果が十分に得られないことや、症状がぶり返すこともあり、その場合は改めて薬を投与することが重要です。
なお、ステロイド剤を何度も投与すると、腱や腱鞘の断裂、感染症などのリスクもありますので、投与のタイミングや回数については専門医にご相談ください。
漢方
漢方薬で症状が改善することもあります。
手指の不調には、神経、筋肉、関節の異常、ホルモンバランスの乱れ、冷え、水分代謝の低下、血行不良などが関係しています。
抗炎症作用や鎮痛作用のある漢方で神経、筋肉、関節の痛みを緩和させます。また、根本的に治療するために、次のような効果を期待できる漢方を用います。
- 血流促進による神経と関節の機能改善
- ホルモンバランスのコントロール
- 身体を温めて筋肉の緊張をほぐす
- 水分の循環を促し疲労物質や老廃物の代謝を促進する
ばね指の予防
アイシングまたは温め
手指を酷使することで起こる鈍痛、炎症による熱感に対してアイシングを行い、患部を冷やすことで炎症を和らげます。
なお、血行不良で手指が上手く動かせないときや慢性的な痛みがあるときは、逆に手を温める方が効果的です。洗面器などにお湯を張って、手指をしばらく浸けておくことで痛みの緩和につながります。
セルフストレッチ
痛みによって指を動かしづらくなり、なるべく動かさないように長期間固定していると、かえって血行不良を招いて関節そのものも動かしづらくなります。軽めの運動を行って固くなり過ぎないようにしましょう。
ばね指に効果的な「グーパー運動」
- 両手を完全に広げて5本の指を伸ばします。
- 手を2秒間しっかり握ります
- ①・②を10回交互に行います
指を伸ばすときには大きく広げて、指が反るくらい力を入れるとよいでしょう。